社会福祉法人 山梨県 障害者福祉協会

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令和7年6月1日特別号共生

発行所 社会福祉法人
山梨県障害者福祉協会
発行責任者 竹内正直
事務所 甲府市北新一丁目2-12
(山梨県福祉プラザ1階)
電話 : 055-252-0100戟@ファックス : 055-251-3344
E-mail : info@sanshoukyou.net
URL : http://www.sanshoukyou.net/
この広報紙は、一部共同募金の配分金によって発行されています。


「災害に備える:自助と言われるのは嫌ですが」
青山学院大学 国際政治経済学部 国際経済学科 准教授 瀬尾佳美
ずっと昔のことです。私は友達と二人で信号待ちをしていました。青に変わったのですぐに渡ろうとした私を友達が制して、「なんで左右を見ないの?」と言うのです。「だって青だから」。私は答えました。「でも右折車がうっかりしているかもしれないよ」と友人。でもそれは相手が悪いのです。「いくら相手が悪くても轢かれたら痛いでしょ」。
私はそれ以来左右を確認して道を渡っています。自助、というのはこういうことなのでしょう。いかに正当性があったとしても轢かれるのは嫌ですね。友人のアドバイスが共助にあたるでしょう。信号を作り、それを守らせるのが公助ですが、人間を含むシステムというのはいつも期待通りに動くわけではありません。
システムを設計する側も神様ではないのですから失敗しながら学んでいく以外にありません。失敗の犠牲にならないためには少しの注意も必要なのでしょう。災害は無謀運転の車以上に無慈悲です。公助はいつも発展途上で、発展のスピードも速いとは言えません。
怠慢だと言いたいわけではないのです。社会や環境変化のスピードが想像以上に速いのです。災害リスクを減らすには、みんながそれぞれの立場で備え、かつお互いにコミュニケーションをとっていくことが重要だと考えています。そのさいに、現状でできないことは「できない」と、正直に伝えることも適切なコミュニケーションに必要だと思っています。
ある水害現場で、「新しいポンプ場ができたのでもう安心」と看板に書いてあったことを思い出します。そのポンプ場は全体が水没してしまったのですけれど。ついでに言えば、その近所の避難所も丸ごと水に浸かってしまいました。日本の避難所は阪神大震災をきっかけに整備がすすみましたので、主に地震を想定して作られたものもあったのです。
仮に水害を想定していたとしても、東日本大震災の津波のような大災害では役に立つとは限りません。どんな対策にも設計には一定の想定があり限界があります。そのことに皆が正直に向き合い、それぞれの立場で、できる対策をする以外にないと思うのです。地域の環境や特性などは国より自治体、自治体より住民のほうが熟知しているケースも多いのですから、その知識や知恵をお互いに尊重して、社会として減災の努力をしていきたいものです。
さて次にどのような備えをしていくのが良いかを考えていきましょう。よく取り上げられるのは3日程度の水や食料、バッテリー等の物品を自宅に準備することと、ハザードマップの確認、避難所までの経路の確認などでしょうか。いずれもとても大切なことです。ここでは具体的なシーンを想像して対策を考えていきましょう。
まずはどのような災害に備えるかです。地震でしょうか、水害でしょうか、土砂災害でしょうか。それとも原発事故?次に、その時どこにいるかの想定です。自宅なのか、通勤・通学・通院などで外出中でしょうか。あるいは旅行先でしょうか。自分一人の時でしょうか、それとも家族や仲間が近くにいるときでしょうか。この組み合わせだけでいくつもありますね。
一口で災害といっても地震と水災害ではずいぶん違います。地震は突然やってくるので外出先で襲われる可能性もあります。自宅の家具固定は推奨されますが、自宅だけでなくよく訪れる場所も含めてハザードマップや避難所の確認をしておくほうが安心です。毎日薬が必要な方は2−3日分を持ち歩く習慣をつけることも必要かもしれません。万一に備えて緊急ホイッスルを持ち歩くのも100円でできる対策です。
一方、豪雨による水災害は発生前にわかりますので、自宅等にいる確率が高いですね。自宅はどのような場所にあるどんな建物でしょうか。もし比較的高い土地にある家やマンション等の高層階であれば、“おうち避難”ができます。
水と気分が上がる食品等の備蓄は良いですね。ただ高層階の場合、飲み水だけでなくトイレやお風呂など水が出なくなることも考えておく必要があります。阪神大震災の後しばらくは翌日までお風呂のお水を落とさなかった家が何軒もありました。断水時のトイレ対策というわけです。
以来30年にわたって役には立っていませんが、災害は安心して対策を怠ったころにやってくるものです。自宅が凹地に位置している平屋、あるいは土砂災害の危険地域にあるのであればおうち避難は現実的ではありません。持ち出せるように避難袋を用意し、避難所までの経路を確認してどのタイミングで避難するかあらかじめ決めておくのがよいとおもいます。
緊急時の判断は難しいですが、あらかじめ熟慮してきめた自分マニュアルに従うことは少しハードルが低いです。災害対策は平時に落ち着いて考えておくのが良いです。仲間や近所の人たちとできるだけコミュニケーションをとっておくのも大切な対策の一つだと考えます。
できるだけ楽しく仲間を増やして、一人も取り残さない社会をつくりましょう。

災害対策と、共生社会実現への繋がりについて
笛吹市社会福祉協議会 事務局次長兼障害者地域支援センターふえふき所長 鈴木勝利
笛吹市社会福祉協議会・支援センターふえふきでは、東北の震災でのエピソードを基に、平成24年から住民が障がい者を助ける「障がい者が地域の防災訓練に参加する試み」を実施。市や自立支援協議会当事者家族部会、社協地域福祉課と共同で行ってきた。
これは笛吹市内の旧町村単位で精神、身体、知的、高齢と障がいの世帯などテーマを変えながら各地を回り、実施したもので、後に、その時の映像を用いて未実施地区でも啓発活動を行った。しかし、実際の地域では障がい者どころか、災害弱者とされる方々の殆どは地域の繋がりも無いことが目立つ。
そんなことから、当事業は全ての地区でウエルカムということではなかった。例えば認知症の母親と知的障害の娘さんのふたり暮らしのケース。日頃地域住民から「この家庭が心配だ」という声はあったものの、いざ避難訓練に参加してもらうとなると、「けがをさせてしまうかもしれず不安」といった反対の声があがる。
 電動車いすの小学生が対象となった時は、歩いて 10分で行ける避難所までの道のりを、ブロック塀や用水路、通行する車などを避けるように通行すると1時間ほどかかることが分かった。
また、避難所である体育館では、「入口に靴がたくさんあると車いすがそのままは入れない」と住民が靴を整理してくれていた。地区によっては高齢化のため、役員は、別の所で住居する子どもが担っているなど、環境がそれぞれ違うこともあり、実施までの調整は色々な苦労があった。
でも、「これは必要な事だね」という危機意識を改めて持っていただけるきっかけとなった。誰でも、自分の住んでいる地区からは災害による死傷者は出したくないという思いは持っている。最初は障がい者を救済することに対して消極的だった地域でも、実施後は改めて地域の中に障がい者がいる事や、対応方法などを皆で学ぶ中で、今後も継続していきたいという声も上がった。
しかし、障がい者は「助けられるだけの存在」なのか。「共生社会」とは、地域の皆さんが互いに支え合って生きていくこと。つまり、障がい者でも「助けられる存在」だけではなく「助ける存在」になることは出来ないのだろうかという思いも出てきた。
2020年。コロナウイルス騒動が始まった。各地では防災訓練が中止となっていった。また、各地での震災などの様子から、当日の避難だけが課題ではなく、復旧するまでの長い期間を含めた対応が必要だと分かってきた。
特に避難所では慣れない集団生活や、そもそも避難所に入れない精神・知的・発達障害などの課題も出ており、孤立や精神面での二次障害も増えている実情がある。
そこで、障がい当事者が防災ボランティアとして活動をすることを通じ、障がい者でも地域の方々と協働しながら活動を行うことで、孤立化を防ぎ、地域の為に活動が出来るのではないかと考えた。被災地での役割を見つけ、出来る範囲での活動を通じて共生社会とならないかということである。
2021年、山梨県地震防災訓練・防災ボランティア設置訓練に2名の障がいの方に参加を呼びかけた。1名は精神障害の方、もう一人は片麻痺で高次脳機能障害の方である。
避難所でのボランティア活動を想定した訓練であるので、参加してくるのは一般のボランティアである。結果この2名は自分に与えられたボランティアとしての仕事を、他のボランティアの協力を得ながら成し遂げることが出来た。後日の反省会。参加した2名からは、「どんなことに気をつけたらいいか最初から分かったらもっとよかった。」、「ボランティアを含め協働する方々がどの程度、障がいへの理解があるのか、まずお互いを知ることが大事だと思う。」などの意見が出た。
またボランティアセンター担当からは「障がい者の方にも協力してもらいながら取り組んでいきたい。障がいがある方にしかできないこともある。」など、前向きな意見が出た。
2023 年には、更に取り組みを変えて防災訓練を開始。市内に新しくできた障がい者グループホームの利用者が地域の避難訓練に参加する計画を立てた。地区に馴染もうとするホームと協働し、地区役員と話し合いを行った。残念なことに当日の訓練は台風の接近により中止に。しかし、地区との話し合いを重ねる中でグループホームの住人たちが避難所の運営も手伝えるということが分かり、小さな共生社会構築のきっかけとなることが出来た。
このように障がい者や高齢者という災害弱者一括りの対応ではなく、出来る人が出来ることを出来るだけ担うということで、災害時での共生社会実現の投げかけを目指している。

災いの先の未来へ
俳優(障害者の主張大会司会担当) 菅野結花
「起きてしまったことは辛く、悲しいけれど、それは必ずしも不幸ではない」私のことを心配して食事に連れ出してくれた恩師が、涙を浮かべながらそう言った。自分自身に言っているようにも聞こえた。その人は戦災孤児だった。大学進学で親元を離れ、2年が過ぎた二十歳の春。初の一人暮らしや甲府の地にも慣れ、県立大の学友や師にも恵まれ、人並みに悩むことはあれど平穏で順調な毎日だった。
新年度からは就職活動が待っている。「きっとどこかには普通に就職して、もしかしたら誰かといつか結婚なんかして、これからも平凡な日常が続いていくのだろう―」そんなことをぼんやり思い描く、どこにでもいる女子大生だった。
2011年3月11日、生まれ育った故郷を一瞬で津波に流されるまでは。凄惨なニュース映像の右上にどうして「陸前高田市」のテロップがあるのだろう。自分の目を疑った。実家すぐそばの酒造会社の見慣れた看板が、濁流に呑みこまれていく。どうやら確実に実家は流された。家族は、地元の友人は、恩師は、無事なのか。誰とも連絡がつかない。テレビ、ラジオ、SNS、インターネットの掲示板、あらゆる媒体から安否情報を集める。家族の無事が分かったのは3日ほどしてからのことだ。それまでは部屋に籠りきりで、寝ても覚めても悪夢を見ているようだった。友人、恩師、愛犬、実家…多すぎるものを失った。
それはまさに「災い」だった。地震や台風、火山噴火。災いの発生そのものは、人の力では防ぐことができない。「いつか」必ず起きるものだ。そして、「いつか」と考えてはいけなかった。物理的にも、心理的にも、何の備えもないまま、私は14年前、東日本大震災を迎えた。一番の後悔は、会えるチャンスがあったのに、会いに行かなかった友人のこと。「年末年始に帰省するから会えたら」と電話をくれたのに、「成人式のタイミングで帰省するからごめんね。また今度」と断った。その電話が最後になった。
私だけではない。大勢の人が、災害の度にたくさんの後悔を繰り返している。せめてほんの少しでも、故郷の記憶を残したい。その一心で、友人知人へのインタビューを中心としたドキュメンタリー映画「きょうを守る」を作り、2011年11月の「やまなし映画祭」で公開した。
「生の声が聞ける」と反響を受け、その後は山梨をはじめ関東圏を中心に各地で上映・講演して回った。不思議な縁で英語字幕まで作って頂き、アメリカにも行った。正確には把握し切れていないが、国内外での上映はこれまでに計100箇所以上。もちろんすべての上映会で講演に行っている訳ではないが、学生生活の後半はその活動で忙しく、ぼんやり思い描いていた「普通の就職活動をする学生」とはかけ離れた自分がいた。回数こそ減ったものの、今でも上映や講演の依頼がある。在米の日本語教師が日本語を学ぶ教材として扱っていて、3月には毎年、アメリカの学生とオンライン画面通話で会話を交わしている。
今年5月は神奈川県の高校に、来年2月には山梨県内の中学校にも伺う予定だ。14年もの時が過ぎ、今の中学生は震災後に生まれた世代。語り継ぐ、貴重な時間を頂いた。自分がその立場になって、戦災を語り継いでくれた、あの恩師の顔が浮かぶ。平成生まれの私には計り知れない、どれほどの辛いこと、悲しいことと葛藤して「必ずしも不幸ではない」という言葉へ辿り着いたのだろう。災いは必ず来る。辛く、悲しいこともたくさん起こる。
それでも、自分の幸せを決めるのは自分だ。自分や周囲の大切な人たちを守り、生き抜くために今できることは何か。考え、備え、幸せな未来へ歩んでいきたい。

今回の特別号はいかがでしたか。地震、台風、ゲリラ豪雨、山火事と災害報道が相次ぐなか、災害についての特集を組んでみました。皆様が防災について考えるきっかけになれば幸いです。
山梨県障害者福祉協会・構成団体は災害の備えだけでなく様々な場面で皆様のお力になりたいと考えております。

山梨県身体障害者連合福祉会 TEL:055-252-0100
山梨県手をつなぐ育成会 TEL:055-285-4292
山梨県精神障害者家族会連合会 TEL:055-252-0100
山梨県視覚障がい者福祉協会 TEL:055-252-0100
山梨県聴覚障害者協会 Mail:yrk33@dream.ocn.ne.jp FAX:055-269-6695
山梨県喉頭摘出者福祉会 TEL:055-262-1153
山梨県腎臓病協議会 TEL:055-242-6308
山梨県肢体不自由児(者)父母の会連合会 TEL:055-223-1464
山梨県知的障害者支援協会 TEL:0551-25-5900
山梨県障害者地域生活支援事業所協議会 TEL:055-228-4411
山梨県障害者スポーツ協会 TEL:055-252-0100
山梨県民生委員児童委員協議会 TEL:055-251-0039

発行所:社会福祉法人山梨県障害者福祉協会 
発行責任者 竹内正直 
事務所:〒400-0005 山梨県甲府市北新一丁目2-12(山梨県福祉プラザ1階)
TEL055-252-0100(代)FAX 055-251-3344
E-mail:info@sanshoukyou.net URL:http://sanshoukyou.net

編集委員会

委員 田端 康三 山梨県手をつなぐ育成会
委員 大菅政勝 山梨県身体障害者連合会
委員 川ア 博史 山梨県精神障害者家族会連合会
委員 角田 貴弘 山梨県視覚障がい者福祉協会
事務局 坂村 裕輔 山梨県障害者福祉協会
印刷所 亀山 輝喜 有限会社 藤屋紙工

この広報紙は、一部共同募金の配分金によって発行されています。