【【審査員からの講評】  選を終えて 懸命に生きる気迫を見る   審査員 竹内冬眠 肩肘張ることなく、日常の障害の居住居(いずまい)を素直に受容しながら、しかし懸命に生きる激しい気迫というものが、いずれの作品にも感じられ、とても嬉しい。 【詩の部】 入選1位 「時間割」 穴水公一 >評<   僅か3連9行の詩に「今」という時間を断ち割って、その「以前」と「以後」の身過ぎに、リアルなアイロニーの切り口を見せて斬新。3連の「1行は、手が届かぬ、2行は隠れて見えぬ」であろう。 入選2位 「バリアフリーの道程」栂江奈津夫 >評<   始めの2行の高村光太郎張りの比喩が、終行の2行で氷解されているが、やや冗舌に過ぎないか。 入選3位 「からざない言葉」 田中つぐみ >評<   人為人工に走った誹りを覚えるが、しかしここは素直に受け入れて「かざらない言葉」を味わおう。 入選4位 「花」となりのトトロ >評<  自身を懸命に鼓舞激励して止まない。終行の「今が花の誕生日」に「今が生まれ変わった私の誕生日」の思いが隠されている。 入選5位 「歩きながら残された年月を思う」田中哲也 >評<   終わりの5行が作品のモチーフ。なかなかそこに辿りつけぬ焦慮をさりげなく周囲の風景や暮らしの日常に扮している。 佳作1「ゆめのステージへ」AMI  佳作2「だいじょうぶ」吉田沙緒里  佳作3「くわのみ」小林浩太朗  佳作4「ランナー」パセリ 詩 ※応募された順番に掲載しています。 だいじょうぶ 吉田 沙緒里(統合失調感情障害) あなたがもし何もかもいやになって 何もかもなげだしたくなったら 私の所へ走っておいて そばにいるから あなたがおちつくまで ずっと ずっと そばにいる だから だいじょうぶ だいじょうぶだよ 無 題 渡辺 あき(統合失調症) すずしい風が すぐくるね ビュービューと ふいている ドライブ、ヒュンヒュン もみじの景色が いいような きがしてね バリアフリーの道程 栂江 奈津夫 (両上下肢機能障害 体幹機能障害) 私の前に道はない 私の後にも道はない まして 奈落にひびく足拍子の音も 電動車椅子だもの ひとつ 空中散歩と洒落込みますか あの鳥のように あの蝶のように あのドローンのように 究極のバリアフリー ハハハ 先人の足跡が残っているよ バリアだらけの登山道として 憧れの頂にはいつかは登るんだ! ふわりと降り立って コマクサのようなピンクの タカネスミレのような黄色い 小さな可愛い花を咲かせよう まてよ 風がバリアになるな? All points will be accessible ones すべてのところをいたるところに 今はいい風を待とう この遠い道程のため 花 となりのトトロ (統合失調症) 花はきれい 私はきれい? きっといつか 両方咲くね? きれいに 未来に咲くよね? 花のように私の未来 輝くよね? いま 毎日が忙しく 泣きたいときもある だけど 未来の花は あなたと咲きたい 私の花 あなたと笑って 咲きたい 今が 花の誕生日 かざらない言葉 田中 つぐみ (統合失調症) ありのままの 言葉でかえせるのなら それでいいじゃない うまいこと言おうと 思わないこと 自分の言葉で 云えればいい ゆっくりでいいさ ありのままでね かざらない言葉 時間割  穴水 公一(身体障害 脳性まひ) 学校で 時間割に縛られ テストが出来ず 追試験 今は 介護サービスの 時間割に追われて 自分を失う 自由は 空の上に 解放は 土の底に ランナー  パセリ (精神障害) 息子を生んだとき 闇の中だった あなたは走りつづけて いまを哀しまずに生きる わたしもいまを走り 生きることを約束しよう どんなときも 炎の中でも わたしたちはランナー 哀しまず いまを わらって わらって 涙の中をかけ抜けていこう とんぼのぼく 羽田 京子(精神障害) とんぼのおじいさん いつもやさしいおじいさん とんぼのお父さん いつもきびしいお父さん とんぼのお兄さん いつも楽しいお兄さん ぼくはいつも幸せだよ ぼくはいつもみんなのそばにいるよ 明るく素直な君のところへ行きたいよ いつでもぼくを待っていてくれるのさ  君は心が温かくきれいなんだ 大空を一緒に飛び回ろうよ  真夏には鬼ヤンマ 秋には赤トンボ いつもぼくはみんなと一緒だよ  広い大地を今も飛んでいるよ 君に会いにいくからね  とんぼのぼくはいつも元気だよ いつもがんばって生きている 聖母子像 Camellia 吉澤 秀明(精神障害) 生きた貴女は今 石膏の肌をして佇む 私は貴女に似た白い頬べを ステンドグラスの淡い影に輝かせている 私達は互いにめしいた視線を通わせる おせこの像 石膏の貴女は彫像の表現と実在を忘れていた 雰囲気と空間とを思いつかなかった 或る時 強い光に当たって 私の頬べは涙の伝った様にひび入り 崩れた下から潤んだまなこが 震えながらのぞいていた その眼は讃嘆と絶望に震えていた 肌は貴女の冷たい腕に凍えて 衣服をたぐり寄せる仕草を止めなかった 私は震えている 私の熱が 貴女に伝わる事を願っている 精神障害者の主張大会に参加して思う 中村 美津夫 (精神障害) いじめ いじめは 地域において 差別 差別は 会社でされて 早い遅いと文句を言われ 作業 作業で 現場で追われ すくない小遣い やっとの生活 税金 税金 消費税 アップアップで生活困窮 年金だけでは 食べてはいけない 仕事に行かなきゃ 食べてはいけない 明日に希望をもち 明るく 素直に 前を向き バカがつくほど まじめな私 笑顔を忘れず 前を向き 苦労を苦労と思わず 明日へのエネルギー 今日も1日たっしゃで生きる がまん がまんで 必死に生きる 歩きながら残された年月を思う 田中 哲也(精神障害) 病院の散歩道を歩いていると バッタが飛び跳ね トンボが群れをなして舞う 彼らも気ままでいいななどと思うが 生きるのに必死なのかもしれない 不自由なデイケア通いではあるが やる事はあるし お昼ご飯まで用意してくれる 世間と距離を置く日々ではあるが 居場所を作ってくれたことには感謝せねば いつか世間を飛び歩き 何ものかを作り上げて 生きた証を残したいもの 余命を大切に使わなければと思う 焦っても始まらないが 夢が止まらない 見 諭司(双極性障害) 夢をいつも抱きしめて 僕は歩いてたんだよ 荷物全部投げ出して ここから走り出すよ 歌にも出来ず 歌詞にも出来ず 一人迷ってたんだ いつの間にやら 時は流れて Ah輝きだせそうさ 走る僕のその心に 風が吹き荒れてる もう僕は後へは戻らず 陰口言われ 馬鹿にされてもいい もう僕は行かなくちゃ 抜け道さえ消えている 僕は何処へ行くんだろう 何もせずに暮らしているだけで良かったかもね 時の流れも分からないまま 今を過ごしてたんじゃ 夢見ないのと 同じなんだろうな 僕は気付きだして もしも振り向きざまに僕を引き止める 愛するあの娘が泣いてても 僕のその心は誰も止められない もう僕は急がなきゃ 人に無いもの求められてる今の時代の中で 僕しか出来ない事をやりたいな 僕は夢を追い駆けて いつか僕のこの声がかすれてしまっても 今もこの胸に夢が溢れてる もう僕は行かなくちゃ ゆめのステージへ AMI(知的障害) ドキドキが止まらないよ 深呼吸 息をととのえて このチャンス逃したくないの 最後まであきらめないよ! まわりを見れば同じように ライバルたち どんな気持ちで待っているか分からないけど 最後まで そう 自分のこと信じてあげなきゃ Be ready! だれより輝いていたいの かれいなステップでキラキラ 夜空にすっと流れる星みたいにね Shining dance だれより高く足を上げて きれいなポーズ決めるから かなえてみたい かなえたいゆめのステージ ワクワクが止まらないよ 胸がたかなったのを感じてる できることぜんぶだしきろう! こうかいはしたくないから かがみのまえでなんどだって レッスンをしてみがいてきたね 「きっと、できる」 まほうのことば ここからは さぁ自分だけのショーがはじまるよ! Be ready! 今よりかがやけるみらいへ さわやかなジャンプでフワフワ 森の中をさまよう妖精みたいにね Fairy dance 誰よりバランスよくヒラリ すばやいターンきめたなら ゆめにみてたステージはもうすぐそこに Be ready! だれよりかがやいていたいの かれいなステップでキラキラ 夜空にすっと流れる星みたいにね Shining dance だれより高く足を上げて きれいなポーズ決めるから かなえてみたい かなえたい ゆめのステージへ くわのみ 小林 浩太朗(体幹・肢体障害) ふるさとの 山のこみちよ くわのみの 下にとけ 夕日ぐも もえていた しずかな 日ぐれよ ふるさとの 山のはたけよ くわのみを つんだのは 夕日ぐも もえていた しずかな コみちよ 友のゆびを そめたよ くわのみの下にとけ 水車(みずぐるま)まわるおと きいてた 日ぐれよ 降っても晴れても 師走 大安 その日雨で悔しがる人がいて その日が雨で喜ぶ人もいて 誰かにはいらないものでも 誰かにとっては大切なもので 誰かは嫌いなものでも 誰かは好きなもので 誰かが批判しても 他の誰かは評価していて 誰かは不味いと言っても 誰かは美味しいと言う 全員がマルということも 全員がバツということも この世にはない みんなと違ってあたりまえ 三者三様 十人十色 百人百様 千差万別 降っても晴れても いい天気